手仕事へのこだわりと光り輝く菜種油:㈱ほうろく屋

愛知県西尾市
発酵通信

愛知県西尾市で国産原料にこだわり、伝統的な圧搾一番搾りの菜種油を作っている㈱ほうろく屋の杉崎学さん。生産量が1%にも満たない、“生命力”ある希少な国産菜種油を通して、誰もが笑顔になる社会づくりを続けている。

誰でも笑顔になる場所作りがしたい

僕は今、国産の菜種を焙煎して菜種油をつくり、それを「ほうろく菜種油」として販売しています。でも、元々油屋の跡継ぎだったわけではなく、油屋をやりたかったわけでもないんですよね。

僕は見ての通り(笑)、勉強嫌いのヤンキー世代。車もバイクも乗り回して排気ガスで環境を汚すし、車の中から平気でゴミを外に投げ捨てるような奴でした。昔から金持ちになりたくて、20代で建築関係で起業して成功したんだけど、いざ金持ちになったら何も楽しくなかったし、お金によって、自分も周りの人も変わっていくことがわかって苦しくなっていきました。

そんな僕が今の活動を始めるようになった大きなきっかけは、親戚の子どもがイジメを苦に自殺をしたこと。そしてもう一人、うつ病と診断された親戚が同じように自殺をしたこと。未来ある若者が身近で2人も自ら命を絶ってしまった。「こんな社会っておかしいよな?どうしたら心に病を抱えた人たちが元気になるんかな?」ってことを考えるようになりました。色んな経験をして、「僕はお金よりも、みんなの笑顔を見るのが好きなんだ」ということに気づいたんです。そこから、僕の人生の目標が「循環型コミュニティ施設をつくること」になりました。お年寄りから子どもまで、障がい者でも引きこもりでも、イジメられて心に傷を持った子でも、誰もがそこに来たら笑顔になる場所を。

それで10数年前に始めたのが、循環型コミュニティ施設・心の駅「イヤシロチ」です。そこには退職した方々が家庭菜園で作った野菜を持ち寄って販売する「なごみ市場」、無農薬の畑で土を触って、心の洗濯をする「なごみ農園」、動物と触れ合って癒される「なごみ牧場」、退職した保健の先生が心の悩みを聞いてくれる「心の保健室」など、色々な受け皿を用意しました。

 

時代が味方してくれた「10年後」の今

心の駅「イヤシロチ」は一旦役目を終えましたが、若者たちが社会に戻るためには「一つの場所で8時間働く」というトレーニングができる場所が必要でした。

そこで出会ったのが当時幡豆(はず)町(現西尾市)にあった大嶽(おおたけ)製油所です。大嶽さんは昭和24年から伝統的な菜種油の搾油を夫婦2人で続けていたけれど、廃業を決めていたので、この技術を学んで若者の就業訓練の場所にしようと思ったんです。大嶽さんの所に丁稚奉公するようになったんですが、そこで食べる賄いが何を食べてもおいしい。油がおいしいと、どんな料理をつくってもおいしくなるんだということを知りました。今、この伝統製法を自分が守らないと、本当にいい油が廃れてしまうことに危機感を覚えて、これを守っていかないと!という使命感が湧いてきました。大嶽さんに「僕は、何十年かけても、この油を世の中に復活させる」と誓ったことを今でも鮮明に覚えています。

一番搾りの菜種油は黄金色に輝き、香り高く、ほんのりとした苦味が味を引き締める。

僕がこの油を始めた10年前は、変態扱いされましたよ(笑)。世の中は効率重視の儲かることをやっているのに、なんでお前はそんなところ継ぐんだ?アホか?と怒られた。国産菜種の自給率は0.04%。ほとんど流通していないから、僕が伝統を受け継ごうとしても、原料がありませんでした。でも、僕は言い返してやったんです。

「10年後、絶対に時代は変わる。愛情込めてつくった、物語のある、本物が受け入れられる世の中になる。原料の国産菜種がないなら、僕は若者たちと栽培するからいい!」と。

渥美半島のNPOの方と連携し、無償で搾油する代わりに菜種をたくさん栽培してもらって、余剰分を買うという取り組みを始めたり、全国を駆けずり回って菜種を栽培してくれと頼んだりしてきました。今はおかげさまで北海道〜九州まで、菜種を栽培してくれる人が増えています。「おーい、杉崎!菜種作ったぞー!」って送ってくれるので、こっちもどんどん作って伝えていかないといけない。まさに、今が10年後。今も苦しい部分はあるけれど、やっと軌道に乗ってきました。

一番搾りで出てきた菜種粕には、栄養がたくさん。土の中の微生物を育む有機肥料として人気。

菜種油で「生命力」を届けたい

受け皿を作りながら自分の中に入ってきたのは、農薬や化学肥料を使わない、微生物豊富な土壌で育った生命力ある食べ物を食べることで、心に病を持った若者たちが元気になるんじゃないかということでした。

輸入された遺伝子組み換えの菜種を買って搾ることはできるけど、僕がやりたいのはそこじゃない。その土地の微生物が育んだ、その土地の気候に合ったものを食べるのが一番生命力があるから、国産の菜種にこだわっています。

唐箕(とうみ)で風を送って殻やゴミを飛ばした後、さらに良い種(右)と悪い種(左)に選別をする。悪い種はチェーンソーオイルとして搾油して利用。

生命力ではなく効率重視でいけば、もっと安く大量に搾れます。例えば、100㎏の原料を化学薬品で抽出すると、70㎏の油がとれますが、一般的な圧搾法だと45㎏。ほうろく屋の油は30㎏しか取れません。なぜかというと、理由は色々ありますが、ひとつは焙煎温度が違うから。焙煎は油の品質を決める最も重要な工程です。焙煎温度が高いほどたくさん油がとれますが、揚げ物をするとわかるように、高温になると油は変質しますよね。

温度計、タイマーなどは使用せず、種の様子を見て、触って、つぶして、香りを嗅いで五感を研ぎ澄ませて焙煎する。

油は一定温度を超えてはダメなんです。温度が上がりすぎないよう、かつ、油が搾れる最高のレベルを目指して焙煎しています。種を取り出してパチパチとつぶれる感覚、中の実の色、染み出す油、触る、嗅ぐ、見る、五感で油を感じ取るんです。温度計を使わないのは、畑によっても搾る日によっても菜種の状態が違うから。種は生きてい
るから、温度や時間を決めてしまうとかえって油の品質にバラつきが出てきます。僕の表現で言えば、僕が目指しているレベルまでだったら菜種は油になってもまだ生きているんです。

一度自然沈殿させた上澄みの油をさらにろ紙でろ過していく。種にストレスをかけないことを追求したオリジナルのろ過装置。

農家さんが汗水たらして作ってくれた種を、僕らが魂こめて油にして、その想いを受け取ってくれた人が料理をして、食べた人が僕らに「おいしかったよ」と言ってくれる。菜種油を通して、僕は若者たちに生き方を伝えたいし、みんなを元気にしたいんです。味噌でも酒でも、空間が発酵しているとおいしくなるように、僕が動いていく先々で繋がった人たちがみんなが手を繋いでみんなで笑顔になっていくことを僕はやっていきたいです。


2018年4月取材:「暮らしの発酵通信」7号掲載

INFORMATION

名称
株式会社ほうろく屋
URL
http://hourokuya.com
その他
ほうろく屋では、毎月1回工場見学を開催しています。詳しい情報は、ほうろく屋Facebookページ(https://www.facebook.com/hourokuya/)をご覧ください。

【商品のお問い合わせ先】
りんねしゃ 宇治店
tel 0567-24-6580
info@rinnesha.com
http://www.rinnesha.com/
この記事を書いたライター記事一覧
KAKO(かこ)【暮らしの発酵コンシェルジュ】
「暮らしの発酵通信」ライター。「微生物と響きあえば、人も社会も発酵する」私の大好きな言葉です。発酵の力でみんなでhappyになろう!
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