八丁味噌の故郷を訪ねて:㈱まるや八丁味噌

愛知県岡崎市
お店紹介

味噌には米味噌、麦味噌、豆味噌があり、米麹を使えば米味噌、麦麹なら麦味噌、豆麹なら豆味噌と呼び名が変わる。
中でも豆味噌は大豆と塩のみという、とってもシンプルな原材料で作られていて、味噌の原型だと言われている。八丁味噌とは豆味噌の銘柄のひとつ。全国的には馴染みの薄い豆味噌でも、「八丁味噌」の名は知れ渡っている。八丁味噌の故郷・愛知県で、決して派手ではなく我欲でもなく、「誰かのため」に活動を続ける人々に出会った。

人とのつながりで生まれた「三河プロジェクト」

株式会社まるや八丁味噌は延元2年(1337年)創業。まるや八丁味噌がある愛知県岡崎市には徳川家康が生まれた城として有名な岡崎城があり、岡崎城から西に八丁( 約870m)の距離にある八丁村(現八帖町)で作られた味噌を「八丁味噌」と呼んでいた。安政四年(1857年)に江戸役人が書いた「三河みやげ」という書物にはすでに「八丁味噌」が記載されていて、八丁味噌の名は古くからかなり広い範囲に知られていたことがわかる。東海道を挟んで隣接する、「まるや八丁味噌」と「カクキュー八丁味噌」が700年近く、今もなお昔ながらの八丁味噌を作り続けている。

ドイツ語や英語が堪能な浅井社長。海外では「Mr. Hatcho(ミスター ハッチョー)」の名で親しまれている。

まるや八丁味噌では、通常の八丁味噌の他に、「三河プロジェクト」という地元・三河地方産の原材料にこだわった限定品を作る取り組みもしている。「人とのつながりからこれは生まれたんです。」と浅井信太郎社長は言う。

「最初から『三河産のものを仕入れて地元の味噌を作ろう!』と思って原材料を探して作ったものではないんです。たまたま私の同級生が農家をしていて、大豆があるというから、『じゃぁそれを使って作ってみようか』と話したのが始まりです。有限会社マルミファームの杉浦実さんが三河を代表するフクユタカという品種の大豆を丹精込めて作ってくれています。彼は養豚業者からの畜産堆肥にEM(※)をかけて発酵させ、土づくりと栽培方法を研究した結果、一反で200kg以上も質のいい大豆ができているそうです。

水は岡崎市内にある合資会社柴田酒造場の仕込み水をいただいています。200年以上の歴史ある酒造場で、地名には『神水(かんずい)』とついているくらい、古くからこの地の水がおいしいと言われています。柴田秀和社長とは、地域の消防団で知り合いました。最初は水を使わせてもらうことを渋っていましたが、いざ三河プロジェクトの味噌が市場に出回ると、『神水仕込み』のラベルを見た娘さんが、実家に戻って酒造場を継ぐ、と言い出してくれたそうです。少しは彼のお役に立てたかな(笑)。今では喜んで水を分けてくれています。」

※EMは乳酸菌や酵母、光合成細菌などの善玉菌を集めたエコフレンドリーな(環境に優しい)農業用資材。

浅井社長の人脈から生まれた「三河プロジェクト」の八丁味噌。1年1桶の超限定品。

構想から3年。2009年に第1号桶の「三河産大豆と神水仕込みの八丁味噌」が発売開始された。1年に1桶しか仕込まない超限定品のこの味噌が次に出荷されるのは、2018年10月。待つ時間も私たちの気持ちを発酵(ワクワク)させていく。

桶も社員もいい影響を与え合う

「三河プロジェクトでは地元産の原料にこだわった味噌を作っていますが、地域活性や三河地方のPRというよりも、地域で繋がって生きていく、ということに重きを置いています。だから、味噌の原材料だけではなく、社員食堂の椅子やテーブルに三河産の木材を使用した家具を使ったりもしています。

最高の大豆と水を使用しているんだけれど、一番大事なのは、この蔵で寝かせるということですね。二夏二冬、うちの蔵の木桶の中で寝かせることで、まるやの味になっていく。これだけ近い距離にあっても、カクキューさんにはカクキューさんの、まるやにはまるやのファンがいます。蔵による味の違い、俗に言う『蔵癖(くらぐせ)』というものがあるんです。

あとは、その蔵を取り巻く人を大事にすることが大切。自分を信じて働いてくれている社員を大事にしないといけない。その人に合った働き方にしてあげたり、社員食堂の環境を整えたり、自分が試食販売のブースに立ってみせたり。そういう気持ちでやっていると、『まぁ、社長もがんばってるよね』と評価してくれるんですよ。そうすると、寒い蔵の中で、60㎏もある石を持ち上げる辛い作業でも、不満を言わずに社員はがんばってくれます。内的要因に不満がなければ、心穏やかにお客様に接してくれるし、社内の雰囲気もよくなる。そしてそれは結果的に経営の安定にも繋がっていきます。

会社を蔵として考えたら、社員一人一人が木桶。新しい桶が来た時は周りを古い桶で囲むと桶がお互いに影響し合うんです。それと一緒で、仕事ができる人や素敵な人が社内にいることで周りにいい影響を与えてくれます。いい味噌になるための環境づくりが社長の仕事ですね。」

地道に攻め続けていくことが大切

浅井社長は1960年代から八丁味噌のアメリカへの輸出を始め、1980年代にはいち早くアメリカの有機認証OCIA)を取得。国内においても2003年に有機JAS認定工場となった。そのほか、ヨーロッパの有機認証(ECOCERT)、食の安全性において厳しい規律を持つユダヤ教のコーシャ(Kosher)の認証も受けている。そうした先駆的な取り組みの原点には若い頃のドイツへの留学体験がある。

「まるや八丁味噌で働く前は、別の味噌会社で働いていました。仕事は楽しかったし、ある程度評価もしてくれていたので不満はなかったんですが、仕事が終わるとふっと力が抜けてやる気がなくなってくる。それが続くと、なんか社会が嫌になって、気力がなくなっていったから、なんかせないかんと思い悩んでドイツに行くことにしました。それまで海外に行ったことはなく、もちろんドイツ語は話せないし、何をするか、なぜドイツなのかも分からないままドイツに旅立ったんです。もう日本に戻ってこないつもりの、大きな決断でした。

ドイツに移住して1年半後。辞めたはずの会社の社長から一通の手紙が届きました。『君はまだわが社の社員だから、給料を出すことになったので送ります』と。訳が分からなかったけど、ありがたく頂戴して、輸出事業を始めたり、ヨーロッパの現地法人を立ち上げたり海外経験を積ませてもらいました。今の自分は、給料を送ってくれた当時の社長の年齢を超えているけれど、えらい大きな人でしたねぇ。今でも尊敬しているし、経営者の姿を学びました。

ドイツにいた時にオーガニックやマクロビオティックと出会い、日本にもこの時代が来ると確信し、いち早く工場も海外の有機認証を受けて輸出を始めました。でも、海外に工場を造ることは考えていません。この八帖町で、この蔵の杉桶で作ることに意味がありますから。それは、『今あるものを活かす』というドイツの人たちの普遍的で質素な生活スタイルに学んだことで、私が目指す会社の方向性にもなっています。」

世界各国でも人気の高いまるや八丁味噌の八丁味噌。いち早くヨーロッパの有機認証やユダヤ教のコーシャ認証を取得し、世界基準での安心と安全を届けている。

「味噌が評価されるのであれば、自分がマネキンになって何でもする」

と言い切る浅井社長。物腰柔らかく、かつ、言葉から感じる熱い想いのある姿は、高く積まれた石の下でじっと時を待ち、濃厚なうま味を醸し出していく、まさに八丁味噌のようだ。

 

話のミソ① 全国シェア5%の豆味噌

豆味噌が文化として浸透しているのは東海地方のみ。愛知県には味噌煮込みうどん、味噌カツなど、豆味噌を使った料理が多い。真っ黒な見た目とは裏腹に、塩分濃度は他の味噌とほぼ同じ10~11%。大豆100%のためうま味が強く、煮込むほどにおいしくなる。隠し味に使えばコクが増し、塩分を控えめにしてもうま味がカバーしてくれている。

話のミソ② 3トンの石の下で眠る八丁味噌

八丁味噌は、豆味噌の中でも水分と塩分が少ない。水分が少ないと菌の動きがゆっくりになるため、じっくりと時間をかけて発酵させる。発酵熟成を均一化させるために木桶に山積みにされる石の重さは約3トン!木桶の中に均等に重さをかけ、かつ崩れにくくするのは、石積みを専門とする職人がいるほど難しい技術。

話のミソ③ 八丁味噌とGI (地理的表示保護)制度

これまでは「八丁味噌」と名乗って豆味噌を販売できるのが、その元祖である㈱まるや八丁味噌と㈱カクキュー八丁味噌の2社だけであった。しかし、2017年12月に農林水産省の推進する「G(I 地理的表示保護)制度」により、いくつかの条件を満たした愛知県産の豆味噌であれば、「八丁味噌」と名乗れるようになった。基準が緩くなり、「HacchoMiso」の名が世界中に認知される可能性が拡がったものの、「八丁」の名の由来やその土地の気候風土などを感じにくくなったことは否定できない。

八丁味噌はこぶし大にまとめた大豆ごと麹にするのが特徴的。味噌玉麹と呼ばれる独特な製造方法は、麹の中で乳酸菌をしっかり繁殖させ、雑菌を寄せ付けないようにするため。


2018年5月取材:「暮らしの発酵通信」7号掲載

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INFORMATION

名称
株式会社まるや八丁味噌
住所
愛知県岡崎市八帖町往還通52
TEL
0564-22-0222(代)
URL
http://www.8miso.co.jp/
その他
【工場見学】
見学受付専用 tel 0564-22-0678 または maruya02@8miso.co.jpまで。
入場9:00~16:00(12:00~13:00を除く)毎時00分、30分にご案内。
※団体の場合はご要予約

【オンラインショップ】
http://www.8miso.co.jp/shop.html
この記事を書いたライター記事一覧
KAKO(かこ)【暮らしの発酵コンシェルジュ】
「暮らしの発酵通信」ライター。「微生物と響きあえば、人も社会も発酵する」私の大好きな言葉です。発酵の力でみんなでhappyになろう!
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